マーケット資料

更新日
2019.11.06

人口とゴルフ場利用者数の関係 KPMG欧州ゴルフマーケットレポート

 国際的な会計・投資コンサルタントのKPMGから2019年の欧州ゴルフマーケットレポートが発表されました。レポートは欧州のゴルフマーケットは大きな変化がないとしていますが、欧州のゴルフマーケットを対象とした投資環境には大きな変化はありませんが、気になるのは英国の現状です。背景にあるのはゴルフ先進国が共通に抱える人口問題です。3大マーケットでもある米国、英国、そして日本は、高齢化への対応と若年層でのゴルフ人口拡大という課題を抱えています。同時に成熟したゴルフ市場の拡大には女性層の需要の拡大は不可欠な要件となっています。これから成長期を迎えようという地域とは地域差があいます。東アジアでは経済成長が著しいベトナムやインドネシア、多少世情不安はあるがタイといったASEAN諸国は経済成長とともにゴルフマーケットも成長するとみられています。日本や韓国、台湾と同じような経緯を取るかどうかは、背景となる条件が違うことから分かりません。中国は政治体制が関係しますから何とも言えませんが、魅力的なマーケットではあります。

 KPMGはこうした投資対象としてのマーケティングを展開しています。中東やトルコ、東欧といったこれからの成長が見込まれる有望市場でゴルフ市場の実態を調査しています。ゴルフだけではありませんが。マクロマーケットという視点でゴルフの市場性の見方を提示してくれており参考になります。

 まずKPMGのレポートを紹介して、KPMGが取っている人口とゴルフ人口及びゴルフ場数を比べるという手法で日本の現状を見たいと思います。[文責:喜田任紀]

KPMGの年次報告書によれば、2018年の欧州のゴルフ市場は安定しており、全体的な需給関係を示す数値に大きな変化はありませんでした。

ヨーロッパの全体的な参加率は2015年以降安定しています。実際、ヨーロッパのゴルフ市場を詳しく見ると、各国ゴルフ協会の54.5%で2018年の自国でのゴルフ参加レベルが安定または増加したことを示しています。残りの45.5%のヨーロッパ市場は、イングランド、スコットランド、スカンジナビア諸国などの著名な市場を含めいくらか減少しました。

研究では、各協会に登録されたゴルファーの人数はわずかに減少し、0.6%(-24,396人)減少しましたが、ヨーロッパのゴルフコースの数は安定したままでした(-3コース減)。

KPMGの調査によると、ヨーロッパ全体の登録ゴルファーの性別分布は変化はなく、68%が男性、25%が女性、7%がジュニアです。

もう少し詳しく

以上がKPMGの分析です。なぜかレポートはページ数も自社の広告スペースを除けば表紙と目次を含めて4ページです。実質2ページだけのレポート。昨年は13ページで、もっと深堀した内容でした。本業が会計・投資コンサルタントですから、今どこにマーケットがあるかが最大の関心事だと思います。今回は、変化がないことから詳しいレポートは出さなかったのかもしれません。そこで、もう少し詳しく見たいと思います。

 登録ゴルファーの男女とジュニアの比率は、2018年は男性68%、女性25%、ジュニア7%でした。この数値を2017年と比較すると男性が1%増え、女性は同数、ジュニアが1%減っています。ヨーロッパ全体の登録ゴルファーの人数は411万2722人で、前年より2万4396人、0.6%の減少です。統計的に見れば0.6%は誤差の内で、ほとんど変わっていないということになります。しかしマイナスです。先の男女。ジュニアの構成比は、登録会員数がほとんど変わらない中でジュニアは構成比を減らしていますから、気になる数字です。総人口に対する登録ゴルフ人口は0.5%で、前年の2017年の0.9%より低くなっています。

 ゴルフ場数は、6859コースで、閉鎖が3コースありました。2017年は、18コースが建設中で、閉鎖は89コースでした。

調査した(なぜかイスラエルが対象になっています)各国の参加率(登録ゴルファー人口)の増減状況は、成長(増加)が31.8%、安定(前年並み)22.7%、衰退(減少)が45.5%です。2017年は増加が39%、前年並み37%、減少24%でした。増減状況を国数でみると、増加13(14)、前年並み11(10)、減少20カ国です。( )内の数字は、マルタが表中の数字は増加ですが、状況のマークが前年並みとなっているためで、数字通りであればカッコ内の数字になります。たぶん表記ミスで、カッコ内の数字が正しいとは思うのですが。  さて、こう見てきますと、確かにヨーロッパ全体では大きな変化はないにしろ、ゴルフ先進国の英国のイングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランドは減少、ゴルフ熱の強い北欧のスウェーデン、フィンランドでも減少しているのが気になります。ま、こうした衰退地域は投資対象として評価は低くなりますから、投資先はゴルフ需要が増加している国となるのでしょう。経済規模からはロシア、トルコ、オーストリアなどが対象となるのでしょう。

人口対比でみた日本と英国のゴルフマーケット

類似点と相違点

 下表に英国の四つのカントリー、イングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランドのデータを再掲載し、日本のゴルフ場数と1ゴルフ場当たりの人口データを示しました。英国の登録ゴルファー人口は、アイルランドが0.58%の減少とほぼ前年並みですが、他の3地区はイングランドが▲1.63%、スコットランド▲4.00%、ウェールズ▲4.06%とともに減少しています。前年も4地区とも減少でした。英国では登録ゴルファー人口は年々減少しています。登録ゴルファーは、4地区のゴルフ協会に登録している人数です。日本とシステムが違うので比較ができませんが、4地区連盟がGet Into Golfなどのゴルファーを増加させる取り組みに力をいれているように、英国でもゴルフ市場の活性化が大きなテーマになっています。背景は人口の減少、高齢化の進行があり、状況は日本と同じですし、高齢化の進行は日本の方が顕著ですから、日本の方が問題は深刻です。

 比較できるデータとしてゴルフ場の数があります。英国では地域によって増えていますが、前年はイングランドが▲35、スコットランド▲18、ウェールズ▲4、アイルランド▲5と大きく減少していますから、反動というよりは新しく建設されていたゴルフ場がオープンした、改造などで閉鎖していたゴルフ場が再開したためと思われます。ただ、減少傾向あります。日本と同じです。

 もう一つ比較できる指標として1ゴルフ場当たりの人口があります。この数値の格差は大きいものがあります。やはり生活中にゴルフがどれほど浸透し、定着しているかがうかがい知れる数字です。日本の半分かそれ以下の人口でゴルフ場が運営できているわけですから、文化的な側面だけでなく経営面からも事情は大きく違うと考えられます。

 さて、下の図は減少を始めた日本人口とゴルフ場利用者数の動きを示したものです。日本の人口はまだ緩やかですが減少を始めています。36年後の2035年には9000万人を割り込み、さらに20年後の2075年には8000万人を切ります。その時の高齢者人口比率は現在の28%から38%とさらに高齢化が進んでいるという予測です。

 現在の時点で、人口の減少に比べゴルフ場利用者数の減少カーブ(急激な右下がりです)に気づかれると思います。もともとジュニア層のゴルフ参加率は低く、平成29年のデータでは総利用者数に占める18歳未満の利用者比率は29年で0.36%です。0.4%程度で推移していますから、この世代が利用者数減少の大きな原因とは考えられません。70歳以上は19.25%で、団塊の世代が対象世代になってきていますからこの比率は当分(さて、5~10年ですか…)の間は利用者数は増え、比率を上げます。18~69歳の世代がどれだけゴルフを楽しんでもらえるかがポイントであることは誰もがご存じのはずです。

 ゴルフプレーを増やしてもらえる要素をもう少し深く掘り下げて、プレーチャンスを増やしてもらう取り組みが必要です。

価格競争に落ち込むマーケットは、商品=ゴルフプレーが一般化、大衆化したためです。例えば、プレーコンディションに目立った差がない、サービスも似たり寄ったりなどゴルフ場間の差がなくなれば、立地環境の中で価格競争が起こります。このコモデティ化が進んだ業界が必然的に落ち込むピットホール、マーケットの罠です。価格競争には限界があります。価格競争の行き着く先は倒産しかありません。ゴルフ場利用税の廃止・軽減が取り組まれていますが、不法な税金ですから廃止は当然だと思います。廃止すべきですし、軽減の方法を探るのは当然の策です。しかし、ゴルフ場利用税がなくなっても標準税率で800円です。ゴルファーからすれば800円安くなるだけのことです。確かに、ゴルフ場コスト削減も限界にきているはずです。800円は大きい。でも1回全国一斉に800円安くなります(プレゼント)が、ゴルファーはやはりプレー料金と相談してゴルフ場を選びます。利用税がどれだけ利用拡大につながるかは、ロジカルに考えた方が良いと思います。

 Amazon.comのCEOジェフ・ベゾスさんが自社のカンファレンスの講演で「お客を満足させてはいけない、夢中にさせるのだ」と言っています。あるマーケッターの人に聞きました。「満足すれば飽きるし、満足したつもりになったお客は、次を欲しがり決して満足しない」ものらしいです。似たような話が「暇と退屈の倫理学」(國分功一郎著、朝日出版社)の中で書かれています。

 最後に、人口統計データから2000年~2017年間で、14歳以下、15~64歳、65歳以上の人口とゴルフ場数を基に利用者数について回帰分析をEXCELでやってみました。結果は以下の表です。なんとなく人口とゴルフ場数と利用者数は関連性があるらしいという結果です。関係性を十分説明できる結果ではないようです。14歳以下のウエイトが高いのは不思議ですが、15~64歳の層が人口数の少なさからプレー需要に寄与していない(マイナスです?)、65歳以上は寄与しており、さすがにゴルフ場がなければプレーする機会が作れないので寄与度は高くなっています。誰かこうした説明を正しくしていただけないものだろうか。